万葉集 〜時を越えて〜

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初句索引
大君(おほきみ)の 命(みこと)(かしこ)み 出(い)で来れば
(わ)の取り付きて 言ひし子なはも
兵役に出る僕に抱き付いて
『行かないで』
と言ったあの娘。
今ごろ、どうしてるのかなぁ……
 防人歌です。最初の二句は『おそれ多くも天皇陛下のご命令で』とでも言うところでしょうか。
 訳では分かりやすくするために、女性のセリフとして『行かないで』という言葉を付け足しましたが、もとの歌にそのような言葉は出てきません。ただ『言ひし』とあるだけです。彼女が何を言ったのか、この歌からは分からないんですよね。ひょっとしたら『一緒に連れて行って』だったかもしれませんし、もっと他の言葉だったかもしれません。ただ、別れを惜しんだ言葉だったことは間違いないでしょう。
 戦乱の心配さえなければ、このふたりがこんな理由で別れることもなかったでしょう。兵役の義務のない今の日本にいるとピンと来ないかもしれませんが、今も戦場に駆り出される兵士がいます。いつ命を落とすとも知れない戦場に。そして、残される家族がいます……