万葉集 〜時を越えて〜

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初句索引
あかねさす 紫野行き 標野(しめの)行き
野守(のもり)は見ずや 君が袖振る
家の前を行ったりきたり
私を見つめて行ったりきたり
ほら、そんなところで手を振ると、誰かに見られてしまうわ
紫草(むらさき)の にほへる妹(いも)を 憎くあらば
人妻ゆゑに 我(あ)れ恋(こ)ひめやも
美しいあなたを少しでも憎いと思っているのなら
人妻になってしまったあなたに手を振ったりはしません
 万葉集を訳して行く上で避けては通れない歌の一つかもしれませんね。
 えー、一発で分かると思いますが、不倫ソングです。一首目を詠んだのが額田王(ぬかたのおおきみ)という女性で、天智天皇の妻です。で、二首目を詠んだのが、天智天皇の弟であり、額田王の前夫でもあった大海人皇子(おおあまのみこ)です。言ってみれば、天智天皇が大海人皇子の妻を奪ってしまったワケですね。
 天智天皇が薬草狩りを催した時に、妻である額田王はもちろんのこと、皇太子であった大海人皇子も同行したんです。そこで詠まれたのがこの歌ってワケです。一首目に出てくる『標野』は、立ち入りを禁止された土地のコトで、天智天皇が一人占めしてた場所と言えば分かりやすいかもしれません。で、同じように一首目に出てくる『野守』というのはその『標野』を見張る番人だと思ってもらえれば良いでしょう。
 天智天皇はなかなか強引な人だったようですね。小学校の歴史の授業で『蒸し米炊いて』なんて語呂合わせで暗記したのを覚えてる方もいらっしゃるんじゃないでしょうか? そうです、朝廷で権力を欲しいままにしていた蘇我蝦夷(そがのえみし)・入鹿(いるか)親子を討ち、大化の改新を行ったあの『中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)』こそ、この天智天皇だったりします。良い言い方をすれば、実行力のある人だったワケですね。で、ここに出てくる二首目を詠んだ大海人皇子は、後の天武天皇です。天智天皇が即位した時に皇太子となってはいますが、天智天皇との仲は決して良いとは言えなかったようです。まぁ、いくら兄とは言え自分の妻を取られれば、そりゃあねぇ(汗) でも、天智天皇は病気で倒れた時に、この大海人皇子に後を託そうとしたと言われてますから、案外『不仲だった』って決め付けてしまうのもおかしいかもしれませんね。実際、天智天皇の娘が天武天皇の皇后になってたりしますし。
 ん〜〜、昔の恋愛事情もなかなかフクザツだったようです。